ヴァージン・グループ【Virgin】(創業者リチャード・ブランソン)が、アムステルダム、ロンドン、パリ、ブリュッセルなどを結ぶ新たな国際高速鉄道計画を進めている。開業目標は2030年。これが実現すれば、ユーロスターが30年間握ってきたドーバー海峡トンネルの独占状態に、初めて競争が生まれることになる。
ヴァージンが動き出した決定的な一歩
ヴァージンは2024年、投資家向けに「ヨーロッパ都市間を結ぶ新たな高速鉄道構想」を発表したが、当初は資金調達の段階であった。今回、英国の鉄道規制機関 Office of Rail and Road がロンドン東部・テンプルミルズ国際車両基地の使用を許可したことで、プロジェクトは実行段階へと進みつつある。
ブランソンは「これは重要な前進であり、海峡トンネルに競争を導入するための道筋を開くものだ」と述べ、ロンドン・セントパンクラス駅からパリ、ブリュッセル、そしてアムステルダムへ直通運転する計画を明かした。
幕を開ける “ユーロスター対ヴァージン” の競争
新路線が開業すれば、ユーロスターの一強状態は終わる。ヴァージンはアルストム製の新型高速車両「Avelia Stream」を12編成導入する計画であり、最新かつエネルギー効率の高い車両を導入することで、乗客に「ヴァージンらしい快適な移動体験」を提供するとしている。
ブランソンはこう語る。
「30年続いた独占に終止符を打つ時が来た。競争はイノベーションを生む。」
なぜ今、ヨーロッパで新しい長距離鉄道が次々と生まれているのか
近年、ヨーロッパでは長距離鉄道の新規参入が急増している。ヴァージンの動きはその象徴である。
その背景には、以下のような大きな流れがある。
1. 飛行機より環境負荷が低い “脱飛行機” の潮流
EU圏では 短距離フライト規制 の動きが進む。
例:フランスは2023年、鉄道で2.5時間以内に移動できる区間の国内線を原則禁止とした。
鉄道は飛行機の 最大約1/20〜1/10 のCO₂排出量と言われ、環境政策の中心に位置づけられつつある。
また、航空旅客にとってもう一つ注目すべきなのが、航空運賃に対する “上昇圧力” である。たとえば欧州では、2024〜25年には平均運賃が数%上がるといった予測も出ている。さらに、燃料・代替燃料コストや環境関連規制の強化、旅客税の引き上げなどが航空料金の底上げ要因となっている。これは、鉄道移動を検討する旅行者にとって “鉄道の選択肢が相対的に割安になる” という追い風でもある。したがって、今回の鉄道新路線構想は、単なる移動手段の充実という意味だけでなく、航空が抱えるコスト上昇の中で「旅行者の新しい選択肢」としての鉄道の優位性をはらんでいるのである。
2. 国境を越えやすい地理・単一市場
EUは国境検査や通貨変動が比較的少ないため、国際鉄道ビジネスが成立しやすい。
海峡トンネルというインフラもあり、鉄道の国際化が航空より容易である。
3. 市場の独占が崩れ始めている
長らく国鉄・政府系企業の独占市場だったが、EUによる鉄道市場自由化 が進み、民間企業の参入が可能となった。
イタリアでは Italo(民間会社)が参入し競争が起き、料金が下がり、サービスも改善した。
次は海峡トンネルでそれが起きようとしている。
4. 飛行機より「都市中心部から都市中心部へ直行できる」価値
鉄道は空港のような長い手続きが不要であり、街の中心部を結ぶ。
時間だけでなく 移動のストレス の低さで、鉄道が選ばれるようになった。
競争が生む恩恵は利用者に返ってくる
ヴァージンが参入し、ユーロスターと競争することで以下が期待できる:
- 運賃の低下
 - 便数の増加
 - サービス品質の向上(Wi-Fi、座席空間など)
 
航空業界がLCCの参入により劇的変化を遂げたように、
長距離国際鉄道は今、同じ変革の入口に立っている。
2030年、ロンドンと欧州大陸を結ぶ国際移動は新しい選択肢を得る。
ユーロスターの独占が崩れることで、鉄道移動はより身近で、安く、使いやすくなる可能性が高い。ヨーロッパの長距離鉄道はこれから大きく動き出そうとしている。







