EUが導入を進めている新たな出入国管理システム「Entry/Exit System(EES)」が、オランダ国内の空港で2025年10月20日より段階的に導入される。これにより、これまで非EU圏の旅行者が入出国時に受けていた「パスポートへのスタンプ押印」が、デジタル記録に置き換えられることになる。
小規模空港から段階的に導入
EESはすでにオランダの港湾で運用が始まっており、今後は空港にも順次拡大される予定である。オランダ政府の発表によれば、まずは小規模なデン・ヘルダー空港で10月20日に運用が開始され、10月27日にはフローニンゲン空港エールデおよびロッテルダム・デンハーグ空港へ、さらに11月3日からはスキポール空港、アイントホーフェン空港、ブレダ国際空港、マーストリヒト・アーヘン空港、ミッデン・ゼーラント空港、トウェンテ空港など全国主要空港に拡大される。
導入スケジュール(オランダ)
- 10月20日:デン・ヘルダー空港
- 10月27日:フローニンゲン空港エールデ、ロッテルダム・デンハーグ空港
- 11月3日:スキポール空港、アイントホーフェン空港、ブレダ国際空港、ケンペン空港、マーストリヒト・アーヘン空港、ミッデン・ゼーラント空港、トウェンテ空港
鉄道利用者も対象に
EESは空港だけでなく鉄道にも導入される。2025年11月10日以降、ロンドン・セントパンクラス駅でEU(シェンゲン圏)入域審査を担当するフランス当局が、オランダ行き列車の乗客に対してEESによるチェックを実施する予定である。
そのため、ロンドンからアムステルダム中央駅やロッテルダム中央駅に向かうユーロスター利用者は、出発時点でEESの登録手続きを済ませることになる。
登録される情報
EESでは、非EU圏の旅行者がEU/EFTA圏に初めて入る際、以下の情報が登録される。
- 氏名
- 生年月日
- パスポート情報
- 顔写真および指紋などの生体情報
また、入国・出国の日時や場所も自動的に記録され、滞在期間の計算にも使用される。これらのデータは3年間保存され、次回の入出国時には照合が行われる仕組みである。
空港での手続きの流れ
空港到着後、旅行者はEES対応のセルフキオスク端末で必要情報を登録する。登録が完了すると、Eゲート(自動化ゲート)または有人カウンターのいずれかでパスポート確認を受けることになる。出国時も同様で、すでに登録済みの旅行者はデータ照合のみで手続きが完了する。
鉄道駅での導入
アムステルダム中央駅およびロッテルダム中央駅でも、11月10日以降EESが運用開始される予定である。これらの駅から出国する際には、EESに基づいたパスポート確認が行われる。
導入初期段階では、駅での登録は主に「氏名、生年月日、パスポート情報」に限られ、生体情報(指紋・顔写真)は求められない見込みである。
パスポートスタンプは2026年春まで併用
EESの本格運用が始まっても、オランダでは2026年4月10日までは従来のパスポートスタンプも併用される予定である。その後、スタンプ制度は完全に廃止され、出入国の記録はすべてデジタルで管理されることになる。
新システム導入の目的と今後
EESの目的は、不法滞在やパスポートの不正利用を防ぎ、出入国管理を効率化することである。EU全体での導入により、シェンゲン圏外からの短期旅行者の動向がより正確に把握されるようになる。
一方で、初期導入時にはシステムの不具合や長い待ち時間が発生する可能性も指摘されている。特に旅行者が多いスキポール空港などでは、しばらくの間混乱が予想される。
欧州の国境管理がデジタル化へ大きく舵を切るこの動きは、今後の国際旅行の在り方を左右する転換点となるかもしれない。