オランダの航空税引き上げでEU域内で最も高い空に。国境越えフライト、ドイツの空港利用の急増。

オランダ政府は2027年から航空旅客税(air passenger tax)を大幅に引き上げる計画を進めている。これにより、オランダ発の航空券はEU域内で最も高額になるとKLMが警告している。

現行の航空税は一律29.40ユーロであるが、2027年以降はフライト距離によって三段階に区分される。短距離(2000キロ以内)は現行と同じ29.40ユーロ、中距離(2000〜5500キロ)は約47ユーロ、長距離(5500キロ超)は70.86ユーロに引き上げられる予定である。例外はオランダ領カリブ地域への便に限られる。


KLMの危機感と業界の反発

KLMは、「この増税でオランダは完全に市場競争力を失い、EUで最も高い航空税の国になる」と強い危機感を示した。すでにオランダの一般的な家族連れは、一度のフライトで合計120ユーロ程度の航空税を支払っているが、今後はギリシャやトルコへの中距離便で約200ユーロ前後に達する見通しである。

対照的に、ベルギーの航空税は最大でも10ユーロ、スウェーデンは航空税を廃止予定であり、ドイツでは増税を撤回する動きもある。こうした国際比較の中で、オランダの負担感は一層際立つ。

KLMははさらに、「税収は持続可能な航空への投資に使われていない」と批判する。代替燃料(SAF)の普及など脱炭素化に充てられるわけでもなく、単に財政収入に吸収されている現状は「環境政策」としても矛盾しているという。


国境を越えるオランダ人旅行者の急増

航空税の高騰は、旅行者の行動パターンを大きく変えている。2024年だけで約230万人のオランダ人が、より安い航空券を求めてドイツの空港を利用した。特にデュッセルドルフ空港は150万人のオランダ人旅行者を迎え、前年比25%増を記録。ヴェーゼ空港では乗客の約40%がオランダ人という状況にある。

ドイツの航空税は15ユーロ程度と控えめであり、さらに駐車場料金や空港利用の利便性も手頃であるため、オランダ人にとって魅力的な選択肢となっている。すでに2019年から2024年の間に、デュッセルドルフ発のオランダ人利用者は41%、ブリュッセル発は20%増加している。


「環境保護」か「市場からの退出」か

オランダ政府は増税によって年間約11億ユーロの税収を見込むが、その一方で旅行者の国外流出を招くことは必至である。ANVR(オランダ旅行業協会)は「国内空港が高すぎれば、人々は国境を越える。これは環境にも好ましくない」と指摘する。

車で数時間走り、ドイツやベルギーの空港からフライトに乗れば、結果的に移動距離と排出量が増える。環境負荷削減を目的としたはずの政策が逆効果になるという皮肉な構図である。


政府の試算では、2030年には少なくとも4万5000人のオランダ人が恒常的に国外の空港を利用するようになると予測されている。しかし、現在の利用状況を見れば、その数字は過小評価に過ぎない可能性が高い。

オランダ政府は「税収確保」と「環境政策」を名目に航空税を引き上げるが、現実にはKLMや旅行業界を圧迫し、消費者を国外空港に流出させている。持続可能な航空の未来を真に望むなら、単なる課税ではなく、その収入をクリーンな技術や燃料開発に投じる必要がある。

オランダの空は、いまや「最も高い空」となりつつある。

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