オランダで若者を中心に急速に広まったファットバイクが、安全面での懸念と迷惑行為の増加を背景に、全国規制の対象となる可能性が高まっている。自治体や市民の間で「自由な移動手段」と「道路安全」のバランスを巡る論争が加熱している。
ファットバイクとは?
ファットバイクは、幅の広い極太タイヤを備えた自転車で、もともとは雪道や砂地といった悪路走行を目的に開発された。オランダで見かけるものの多くは電動アシスト付きで、平地でも軽い力でスピードを出せるのが特徴。
その迫力ある外観と安定感、さらに改造やカスタマイズの自由度から、近年は若者の間でファッション的アイテムやステータスシンボルとして人気が急上昇している。
しかし、オフロード向け設計であることから都市部でのスピード超過や交通ルール無視といった行為が目立ち、各地で安全面の問題が浮上している。

若者のステータスシンボルから社会問題へ
太いタイヤと独特なデザインを持つファットバイクは、SNS映えや改造のしやすさから若者の間で人気が爆発。しかし、その一方で、時速40キロを超えるスピード走行、歩道の占拠、混雑した街中での危険運転などが各地で報告されている。
アムステルダム、ロッテルダム、ユトレヒトを含む20以上の都市が、こうした行為に対処するため全国的な規制を求める声を上げている。
自治体のジレンマ
一部の都市、例えばエンスヘーデでは、ファットバイクの禁止を検討する動きもある。しかし法的にはファットバイクは電動自転車(e-bike)と同等であり、禁止措置は複雑な法的課題を伴う。仮に禁止しても、メーカーが仕様変更で規制を回避する可能性が高いという。
2023年には40以上の自治体が政府に危険性を訴える書簡を送ったが、2年経った今も抜本的な対策は取られていない。アムステルダム市は「危険は全国的な問題であり、自治体ごとの対応は馬鹿げている」と強く批判している。
「自由」と「安全」のはざまで
オランダ下院では、最低利用年齢を14歳とし、ヘルメット着用を義務化する案が多数派の支持を得ている。インフラ・水管理省はファットバイクとe-bikeの区別に関する第三次調査の結果を待っており、その後に最終方針を決める見通しだ。
ファットバイクは若者文化の象徴であると同時に、交通ルールや公共の安全を巡る新たな論争の火種となっている。9月4日の下院審議が、この議論の大きな分岐点となる可能性が高い。