2026年1月1日、オランダで80以上の新法・制度改正が施行へ。変更点のまとめ。自営業の控除縮小、長年使われてきた決済手段であるiDealは、2026年からWeroへの移行を開始する。

税金・年金・住宅・エネルギーまで、生活コストへの影響は避けられない

2026年1月1日、オランダでは80を超える法律および制度変更が一斉に施行される。毎年恒例とはいえ、今回は税制、社会保障、住宅、エネルギー、交通、ビジネス規制まで広範囲に及び、在住者の家計や事業運営に直接的な影響を与える内容が目立つ。

特に「可処分所得は本当に増えるのか」「自営業者や賃借人にとって不利な改正ではないか」という点が議論の的となっている。


所得税と最低賃金:名目上は増収、実質では慎重な見方も

2026年の税制改正により、最低賃金労働者の手取りは月10〜20ユーロ増加する見込みである。いわゆるモーダル収入(月3,875ユーロ)では月約35ユーロ、2倍モーダルでは約47ユーロの増加となる。

最低賃金は時給14.71ユーロ(36時間労働基準)に引き上げられ、若年層の最低賃金も連動して上昇する。失業給付や障害給付など、最低賃金連動型の社会保障も増額される。

一方で、税率区分はインフレ調整されず、第2税率区分は引き上げられるため、中低所得層が「実質的な購買力の伸び」を実感しにくい構造は変わっていない。


自営業者への逆風: zelfstandigenaftrek の大幅縮小

自営業者にとって最大の変更点は、自営業控除(zelfstandigenaftrek) のさらなる縮小である。
2025年の2,470ユーロから、2026年には1,200ユーロまで半減以下となる。

年間1,225時間以上働くことが条件とはいえ、個人事業主ビザで滞在する外国人やフリーランサーにとって、実効税率の上昇は避けられない。政府は「被雇用者との税制格差是正」を理由に掲げるが、独立系労働者からは反発が根強い。


医療制度:保険料は微増、カバー範囲は拡大

健康保険料は平均で月1ユーロ増加し、2026年の平均保険料は159.63ユーロとなる。自己負担額(eigen risico)は385ユーロで据え置かれる。

注目点として、

  • 禁煙プログラムが年3回まで保険適用
  • 重度の体軸性脊椎関節炎(axSpA)の理学療法が基本保険でカバー
  • かかりつけ医経由の専門医受診は自己負担免除

など、予防・慢性疾患への配慮が強化されている。


年金制度:新制度への全面移行と女性への影響懸念

2026年1月から、約950万人が新年金制度に移行する。年金は個人口座ベースとなり、若年層は高リスク運用、高齢層は保守運用となる。

積立準備金の縮小により、年金支給額が増える可能性もあるが、
「20〜30代でパートタイム就労が多い女性が不利になる」
という指摘が専門家や労働団体から出ている。

AOW(国民年金)支給開始年齢は67歳で据え置かれ、最低賃金上昇に連動して給付額も増える。


住宅と家賃:賃借人支援は拡大、光熱費と地方税は上昇

住宅投資用物件の不動産取得税は10.4%から8%に引き下げられる。これは2024年の賃貸規制強化後に起きた「貸主の大量売却」を食い止める狙いがある。

家賃関連では重要な転換点がある。

  • 2026年から21歳以上は家賃額に関係なく住宅手当申請が可能
  • ただし補助対象は月932.93ユーロまで
  • 18〜20歳は上限498.20ユーロ

一方、

  • ガス・電気料金は約3%上昇
  • 地方税は平均3.9%増
  • 平均的な持ち家世帯の自治体負担は年間1,001ユーロ

と、固定費の上昇は避けられない。


交通・エネルギー・支払い手段の変化

NSは鉄道運賃を平均6.5%値上げする。
燃料税も引き上げられ、ガソリンは1リットルあたり5.5セント増となる。

郵便では、PostNLの切手料金が1.40ユーロに引き上げられる。

また、長年使われてきたオランダの決済手段である
iDealは、2026年からWeroへの移行を開始する。

iDEAL→Wero移行とは何か:見た目はロゴ変更、裏側は“欧州統合”の布石

iDEALのWero移行は、単なる名称変更ではない。オランダ国内で圧倒的に使われてきたiDEALを、欧州銀行主導の決済基盤へ段階的に統合するプロジェクトである。公式の説明では、2026年からまず「iDEAL|Wero」という併記ロゴ(コーブランディング)へ移行し、その後、最終的にWeroへ一本化される流れとなる。

利用者にとって何が変わるのか

当初の体感は小さい可能性が高い。iDEAL側は「チェックアウトはこれまで通り動き、PSP(決済代行)も基本的に変わらず、利用者側で調整することはほぼない」という趣旨を強調している。つまり、オンライン決済のボタンが“iDEAL”から“Wero”寄りの表示になる程度で、支払いフロー自体は急に変わらない設計となっている。ただし移行が進むにつれて、iDEALにはなかった追加機能が段階的に増える見込みである。Weroは銀行主導のデジタルウォレットとして、個人間送金(P2P)から始まり、オンライン加盟店決済、将来的には店頭決済までを「欧州の共通ルール」でカバーする構想を掲げている。

なぜWeroに統合するのか

(1) 国境をまたぐ決済の標準化
iDEALは“オランダ国内で強い”一方、原則として国内向けの仕組みだった。Weroは複数国で共通に使える決済を目指しており、オランダも2026年に対象国へ加わる計画が示されている。

(2) 決済主権(Payment sovereignty)と手数料構造の再編
Weroは欧州の銀行コンソーシアム(EPI)主導で、米系カードネットワークやPayPal、巨大プラットフォーム決済への依存を下げる“欧州の選択肢”として位置づけられている。これにより、手数料やデータの扱いを欧州側でコントロールしやすくする意図がある、と報じられている。

事業者(EC・加盟店)側で起きること

加盟店側では、段階ごとに“表示”や“ブランド”の更新が発生する。銀行向け案内では、2026年初頭からiDEAL-Weroロゴの利用開始時期など具体的な移行ステップが示されている。ただし大枠としては「決済導線を壊さずに、バックエンドを移行する」方針で、急激なシステム総入れ替えというより、周辺要素(ロゴ・表記・規約・新機能追加)から順に切り替わっていくイメージとなる。


社会規制とビジネス:現金規制と暗号資産監視強化

2026年から、商品販売における3,000ユーロ以上の現金支払いが禁止される。マネーロンダリング対策の一環であり、個人間取引やサービス業は対象外となる。

暗号資産についても、取引所が顧客情報と取引履歴を税務当局に報告する制度が導入予定で、遡及適用が計画されている。


2026年は「静かな負担増」の年

今回の制度改正は、劇的な変化よりも広範囲にわたる小幅な負担増と制度再設計が特徴である。
賃金や手当は増えるが、税・エネルギー・住宅コストも同時に上昇するため、可処分所得の実感は世帯ごとに大きく異なるだろう。

特に自営業者、賃借人、単身世帯、パートタイム労働者は、2026年を前に一度、自身の税務・給付・固定費を見直しておく必要がある年になるといえる。

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