EUが本気で締め出す中国系ネット通販。追加料金制度の狙いとは!?オランダのEU域外から届く小口荷物に対してはじまる追加料金制度がEU全体への拡大へ。制度が始まれば、オランダとEUから二重の料金が徴収される。ヨーロッパ市場を「安さ」と「気軽さ」で席巻してきた中国系ネット通販の終焉。

中国発ネット通販に逆風

オランダの追加料金制度とEU全体への拡大

SHEIN、Temu、AliExpress──。
オランダで日常的に利用されているこれら中国系ネット通販が、近い将来、確実に「割高」になる。

オランダ政府は2026年1月を目標に、EU域外から届く小口荷物に対して新たな「取扱手数料(handling fee)」を導入する方針だ。対象は150ユーロ以下の商品で、現在は関税が免除されている価格帯である。

制度が始まれば、EU域外からの荷物に含まれる1商品ごとに2ユーロが課される。平均的な配送には3点の商品が含まれるため、1パッケージあたり約6ユーロの値上げとなる計算だ。

1日100万個の小包が押し寄せる現実

この制度導入の背景にあるのは、オランダ税関の限界である。

オランダにはEU域外から1日あたり約100万個の小包が到着しており、その最大90%が中国系通販サイトからの注文だとされる。しかも、これらの多くはオランダ国内向けではなく、他のEU加盟国へ再配送されている。

税関は本来、商品の安全性チェック、不正の取り締まり、輸入VATの徴収などを行う必要がある。しかし現在は物量が多すぎて、十分な監視ができない状態が続いている。

このままでは、違法商品やEU基準を満たさない製品が素通りするリスクが高まる。そこで政府は「手数料」という形で、流入量そのものを抑制しようとしている。

目的は税収だけではない

この追加料金制度により、年間で約20億ユーロの税収が見込まれているという報道もある。ただし、政府の狙いは単なる財源確保ではない。

・税関業務の負担軽減
・EU基準を満たさない商品の流通防止
・極端に安い輸入品との競争に苦しむオランダ国内事業者の保護

これらが主な目的とされている。

実際、EU内の事業者は人件費や環境規制、安全基準を守るコストを負担している。一方、中国系通販の商品はそれらを回避できるケースも多く、価格競争が歪んでいるという批判は以前から強かった。

EU全体でも同様の制度が始まる

さらに、この動きはオランダ単独にとどまらない。

EU財務相会合では、2026年7月1日からEU全体で1商品あたり3ユーロの輸入手数料を導入することで合意している。これが実施されれば、オランダ独自の2ユーロと合わせて、1商品あたり最大5ユーロの負担となる。

例えば3点入りのパッケージであれば、最大15ユーロの追加コストが発生する可能性がある。

フランス、ベルギー、ルクセンブルクなどは「EUの導入時期は遅すぎる」として、より早期に独自制度を始める構えを見せている。

「オランダだけ何もしない」は危険

もし周辺国が先に課金を始め、オランダだけが導入を見送った場合、何が起きるのか。

答えは明白だ。
物流業者は関税や手数料を避けるため、EU域外の荷物をすべてオランダ経由に切り替える。

政府の試算では、その場合、現在の3倍にあたる1日300万個以上の小包がオランダに集中する可能性があるという。ロッテルダム港やスキポール空港が麻痺しかねない「Eコマースの津波」だ。

この事態を防ぐため、オランダは周辺国と足並みを揃えて制度を導入する方針を取っている。

結局、支払うのは誰か

名目上、手数料を支払うのはPostNL、DHL、FedExといった配送業者である。しかし、コストが最終的に消費者に転嫁されるのはほぼ確実である。

すでに配送業者側からは「準備期間が短すぎる」という不満も出ているが、政治的な流れを見る限り、制度が撤回される可能性は低い。

オランダ下院(Tweede Kamer)では、早期導入を求める動議もすでに可決されている。

安さの時代の終わり

これまで中国系ネット通販は、「安さ」と「気軽さ」でヨーロッパ市場を席巻してきた。しかし、その裏側で税関や国内事業者に大きな負担がかかっていたのも事実だ。

今回のオランダ、そしてEUの動きは、その歪みを是正する第一歩とも言える。

例えば2ユーロのヘアクリップが、本当にその価値なのか。
送料込みの「激安」が当たり前だった時代は、静かに終わりを迎えつつある。

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