― 7万人の熱狂と、120万ユーロの現実 ―
オランダ第2の都市ロッテルダムで、毎年大晦日の象徴となってきた「Nationaal Vuurwerk(全国花火ショー)」が、今年は開催されないことが決まった。会場は市のランドマークであるエラスムス橋。テレビ中継もされ、数万人が押し寄せる“オランダ最大の年越し花火”として知られてきた。
しかしその伝統が、2025年の年越しを前にして突然途切れる。
■ 中止の最大要因は「資金ショート」
ロッテルダム市は昨年、イベント予算の削減方針を決め、全国花火ショーへの市の資金提供を打ち切った。これにより主催者側はクラウドファンディングで継続を試みたが、必要額約120万ユーロ(内訳:メイン花火80万ユーロ+子ども向け花火+周辺地域イベント等)に対して、集まったのはわずか約2.8万ユーロ。締切日の11月7日に、開催断念が正式に発表された。
「その日を過ぎれば、花火の調達と設営準備が間に合わない」
主催財団はそう述べ、打ち切りを認めた。
■ 花火の規模は年々拡大していた
エラスムス橋の全国花火は、当初こそ2〜3万人規模の市民イベントだったが、2010年代後半には観光イベント化していく。
| 年越しシーズン | 推定来場者 |
|---|---|
| 2014 / 2015 | 約2.5万人 |
| 2019 / 2020 | 約6万人 |
| 2024 / 2025 | 約7万人 |
ロッテルダム市にとって、花火ショーは「公式の大規模イベントを提供することで、個人による花火の暴走を抑えられる」という安全管理上の目的もあった。しかし、市の財政的優先順位が変わったことで、この論理は採用され続けることができなかった。
■ 年越しの“負の側面”:事故・通報・物損
オランダでは大晦日に個人が花火を打ち上げる文化が強く、事故・通報・火災・物損が毎年のように発生する。
ロッテルダム市の安全文書によると、
- 消防通報件数
679件 → 600件 → 508件(直近3年) - 救急出動
227件 → 133件(直近2年) - 市有物損害額
約41万ユーロ → 約26万ユーロ(2019~2025の推移)
年により変動はあるが、「公式イベント開催=事故減少」という単純な構図ではない。それでも、市有物の損害額が毎年数十万ユーロ単位で発生していることは、税金の使われ方という観点で無視できない負担である。
■ 背景にある“オランダ全体の転換”
2025年、オランダ議会は消費者花火の全国禁止へ向けた法案を通過させた。施行には準備期間が必要で、禁止の完全実施は2026/27の年越しを目指す。
すでにロッテルダムを含む複数都市では、部分的に個人花火の禁止区域や全面禁止を導入しているが、法整備が追いつかず、現場では完全に抑制できていない。
全国禁止が実施されれば、市民が花火を購入して自由に打ち上げられるのは、**今年か来年が事実上「最後」**となる。
■ 伝統の終了ではなく、“役割の変容”
エラスムス橋の全国花火は、多くの市民や観光客にとって「新年の始まりを祝う象徴」だった。同時に、都市が巨大な花火ショーを行うことで、個人による危険な花火の使用を抑制する安全装置の役割も果たしていた。
しかし、財政・安全・環境という現代的な基準で見たとき、その在り方は自ずと問い直される。
今後はレーザー、ライトショー、ドローンなど、環境負荷が小さく安全性の高い演出が主流になる可能性が高い。
花火は“禁止されるもの”ではなく、変化していくものなのかもしれない。







