2025年10月12日、アムステルダムで行われた反移民デモにおいて、29人が逮捕された。デモは「Nederland in Opstand(反乱するオランダ)」という団体によって組織され、同団体は「大量移民が住宅不足や社会保障費の増大、治安の悪化をもたらしている」と主張している。
当初、警察は「デモ自体はおおむね平穏に行われた」と発表していたが、参加者の一部が市中心部で花火を打ち上げ、物を投げ倒すなどの行為に及んだため、警察は公共秩序の維持を理由に29人を拘束した。逮捕容疑には侮辱、器物損壊、違法武器所持、公務執行妨害などが含まれる。
極右的象徴とヘイトスピーチ
デモ参加者の中には、かつてオランダのナチス協力組織「NSB(オランダ国家社会主義運動)」が使用していた「プリンセン旗(オレンジ・白・青の三色旗)」を掲げる者も見られた。これは現代の極右勢力の象徴としても使われており、彼らの政治的立場を象徴している。
行進中には、「我々こそオランダだ」「難民センターはいらない」といったスローガンに加え、露骨な人種差別的・反ユダヤ的な罵声が飛び交った。特に、左派政党GroenLinks-PvdAの党首フランス・ティマーマンスに対して「汚いユダヤ人」などと唱える集団もいたという。
ティマーマンス自身も、デモ終了後にアムステルダム市内のカフェで取材を受けていた際、数名の男から「汚い犬」と罵られ、ナチ式敬礼を向けられるという事件に遭遇した。これに対してアムステルダム市長ファムケ・ハルセマは、「表現の自由と威嚇を混同する者は、民主主義の場に立つ資格はない。すべての政治家が自由に議論できる社会を守らねばならない」と強い声明を出した。
対抗デモと市の対応
同時刻には、「Together Against Fascism(ファシズムに反対する人々)」と題した対抗デモも開催され、数百人が参加した。こちらは終始平和的に行われ、警察との衝突はなかった。
アムステルダム市は事前に「安全リスク区域」を大幅に拡大し、警察が予防的に身体検査を行える体制を整えていた。デモには騎馬警官や警察犬、水砲車、機動隊が配置され、警備は厳重であった。これは、3週間前にデン・ハーグで起きた同様の反移民デモが暴動化し、警察車両の放火や記者の負傷などが発生したことを受けた措置である。
オランダ社会における移民と「恐怖」
オランダは長年、寛容と多文化共生を掲げてきた国である。しかし近年、住宅不足、医療・教育費の増加、治安悪化などの社会不安を「移民のせい」にする風潮が広がっている。特に、シリア・ウクライナからの難民受け入れ、アフリカ系・中東系移民の増加が右派勢力によって政治的に利用されている構図がある。
移民を社会的・経済的問題の「スケープゴート(身代わり)」とする動きは、ヨーロッパ全体で顕著であり、オランダも例外ではない。極右政党PVV(自由党)やFvD(民主フォーラム)は、「オランダ人のアイデンティティが脅かされている」と訴え、一定の支持を集めている。
日本の移民問題との違い
日本においても、少子高齢化の進行により外国人労働者の受け入れは避けられない課題となっている。しかし、制度的にも文化的にも「移民」という言葉を忌避し、「技能実習」や「特定技能」といった枠組みで実質的な労働移民を導入しているのが現状である。
オランダのように外国人労働者が地域社会に溶け込み、政治的論争の中心に据えられることはまだ少ないが、日本社会の「静かな排除」もまた問題化している。たとえば外国人が賃貸契約を断られる、地域コミュニティから孤立する、といった差別は顕在化しにくい形で存在している。
オランダでは、排外主義が「声高な政治運動」として現れ、日本ではそれが「制度の隙間」に埋もれる。この違いは社会構造や政治文化の差でありつつ、根底にあるのは同じ——「変化への恐怖」とも指摘してされている。
アムステルダムのデモは、暴力的な側面だけでなく、現代ヨーロッパが抱える民主主義の緊張を象徴している。移民問題は単なる「経済」や「治安」の話ではなく、「誰を社会の一員と認めるか」という根源的な問いとなっており、異なる文化、宗教、価値観を持つ人々をどう受け入れるのか。そこに社会の成熟度が問われている側面もある。