オランダ政府は、郵便物の配達目標を現行の「24時間以内」から段階的に緩和する方針を示した。
2026年からは「最大2日以内」、2027年からは「最大3日以内」となる見通しである。
これまでオランダでは、郵便物は原則翌日までに届けることが義務付けられていた。しかし、デジタル化が進み、手紙やはがきを送る機会が激減した現在、この基準は時代に合わないものと見なされている。
今回の方針転換は、郵便会社PostNLの要請に基づくものでもある。同社は、「24時間配送」を維持するためのコストと人手がもはや確保できないとして、政府に規制緩和を求めていた。
背景:郵便量の減少と持続不可能な体制
郵便利用の激減
過去20年で、オランダ国内の郵便取扱量は半減以上した。電子メールやデジタル通知が主流となり、紙の郵便を送る理由は大きく減った。
しかし、郵便事業者には依然として全国一律でサービスを提供する義務が課せられており、そのコストは減らない。
この構造的なギャップが、郵便網の持続可能性を脅かしている。
PostNLの苦境
PostNLはここ数年、配達の遅延が常態化している現実がある。
2024年のデータでは、法定基準である「翌日配達率95%」を大きく下回り、実際には約86%しか守られていない。
住民からも「税務署からの重要書類が遅れて届いた」「役所の手続き期限に間に合わなかった」といった苦情が相次いでいる。
それでも政府は、同社が求めた財政支援を拒否しており、PostNLは事業維持のため規制緩和を唯一の道とするに至った。
政府の対応と例外措置
オランダ経済省は、郵便制度の見直しを正式に承認した。
「現行ルールは時代遅れである。国民は手紙を送らなくなった。それでも、郵便事業を赤字で続けさせるわけにはいかない」と述べている。
ただし、弔慰状や医療関係の郵便など、社会的に重要な種類については、引き続き24時間以内・週6日の配達を義務づける。
政府は、PostNLが「週5日配達」を維持することを条件に規制緩和を認めており、極端な縮小(例:週2日配達)への歯止めをかける考えである。
郵便の未来と社会の変化
2026年からの段階的移行が予定されているが、実際にどの地域・郵便区分から変更されるかなど、詳細な運用はまだ明らかになっていない。
今回の決定は、郵便という公共インフラを守るための「現実的な後退」である。
多くの市民にとっては「不便になる」変更かもしれないが、企業側から見れば「破綻を避けるための必要な一歩」である。
手紙の文化が衰退する一方で、社会は新たな通信・通知手段を模索している。
オランダの郵便制度の変化は、紙の時代が静かに幕を閉じる象徴的な出来事といえるだろう。