夜行列車で行くバルセロナとミラノ――ヨーロピアン・スリーパーがつなぐ新しい夜の列車の旅路が期待される。2026年に南欧ルート開設へ。

夜行列車の黄金時代が、再びヨーロッパに戻りつつある。
環境負荷の少ない移動手段として注目される「夜行列車(ナイトトレイン)」は、飛行機よりもエコで快適な都市間移動を実現する選択肢として人気を取り戻している。

その中心にいるのが、ベルギー・オランダ発の新興鉄道会社European Sleeper(ヨーロピアン・スリーパー)である。
同社はすでにアムステルダム〜ベルリン〜プラハを結ぶ夜行列車を運行しているが、次なる目標はさらに南へ――バルセロナとミラノである。

2026年から2027年にかけて、これら南欧路線のいずれかが開通する見通しだ。


バルセロナ線:2026年後半に運行開始を目指す

ヨーロピアン・スリーパーは現在、ブリュッセル発・バルセロナ行き夜行列車の実現に向けて準備を進めている。
このルートはフランス南部を経由し、アヴィニョン、モンペリエ、ナルボンヌ、ジローナなどを経てバルセロナに到達する構想である。

本来はアムステルダムを始発とする計画だったが、ダイヤ上の制約から、当面はブリュッセル発に変更された。アムステルダム発にすると午後の早い時間に出発せざるを得ず、「夜行列車」としての魅力が薄れるためである。

ただし、アムステルダム直通の実現もあきらめてはいない。ヨーロピアン・スリーパーは「最終的な目標はアムステルダム発」と語っている。


最大のハードルは「車両の確保」

このバルセロナ線構想で最も大きな壁となっているのが車両の調達である。
夜行列車には専用の寝台車や個室車両が必要であり、これらを新たに購入・整備するには莫大なコストがかかる。
ヨーロピアン・スリーパーは現在、2つの企業と交渉を進めているが、資金面での負担が非常に大きいという。

加えて、フランス国内の線路使用許可(スロット)も課題である。
フランスでは夜間に線路メンテナンスが多く、貨物列車も夜間帯に集中している。そのため、夜行旅客列車が通行できる時間帯を確保するのが難しいとされている。

これらの要因により、当初の開通予定は延期され、2026年後半の運行開始を目指す形となった。
しかし、スケジュールがさらに遅れ、2027年以降にずれ込む可能性も指摘されている。


ミラノ線:もうひとつの南欧ルート

もうひとつの注目ルートがアムステルダム〜ミラノである。
この列車はアムステルダムを出発し、ブリュッセル経由でドイツ、スイスを通過し、ミラノへ向かう構想である。

スイス国内では、**シンプソン峠(マッジョーレ湖沿い)ゴッタルド峠(コモ湖沿い)**の2ルート案が検討中となっている。
どちらも景観が美しく、旅情あふれる夜行ルートになることは間違いない。

バルセロナ線よりも距離が短いため、こちらのほうが技術的には実現しやすいとされている。
そのため、もしバルセロナ線が遅れる場合には、ミラノ線が先に運行を開始する可能性もある。
両路線ともに週3便の運行が予定されている。


政府の後押しも始まる

オランダ下院(Tweede Kamer)は、ヨーロピアン・スリーパーの新路線開設を後押しする動議を可決した。
これにより、オランダ政府はベルギーおよびフランス政府と連携し、夜行列車の早期開通に必要な協定を結ぶ方針を示している。
また、車両リースや購入のための金融支援を検討するよう国務次官ティエリ・アールツェンに指示を出した。

とはいえ、ヨーロピアン・スリーパー側は「補助金は求めていない」と明言している。
必要なのは資金そのものよりも、制度上の障壁の除去――つまり国境を越える運行を可能にする調整である。


夜行列車の復権なるか

ヨーロピアン・スリーパーは2021年に設立され、2023年にアムステルダム〜ベルリン〜プラハ線で営業運行を開始した。
さらに冬季限定でベネチア行き夜行列車も走らせている。

ヨーロッパでは航空機利用の環境負荷が問題視される中、鉄道を再評価する流れが強まっており、夜行列車が再び脚光を浴びている。
だが、現実には国境をまたぐ複雑な運行調整、老朽化した車両の更新、そして乗客確保という課題が残る。

それでも、ヨーロピアン・スリーパーは夢を諦めていない。
「夜のヨーロッパを再びつなぐ」という理念のもと、彼らは少しずつ現実に近づいている。

2026年、あるいは2027年。
バルセロナか、ミラノか。
新たな夜行列車が動き出すその日を、ヨーロッパ鉄道ファンならずとも待ちわびたい。

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