事件の概要
2024年8月20日未明、アムステルダムで遊んだ後、アブカウデの自宅に帰宅途中だった17歳の少女リサさんが、デュイフェンドレヒトのホルターベルグ通り付近で襲撃され、激しい暴行を受けて命を落とした。
リサさんは午前4時頃、電動自転車で帰宅途中に緊急通報をしていたが、駆け付けた警察官が発見した時にはすでに死亡していた。
警察は事件発生翌日、アムステルダム南東部にある難民受け入れ施設(COA)で22歳の男を逮捕した。捜査中にナイフと携帯電話も発見され、これらが容疑者のものかどうか現在確認が進められている。
容疑者の素性と特定の難航
逮捕された22歳の男は、6月にオランダに入国したばかりで、わずか2か月前に来蘭したとみられている。本人はナイジェリア出身と主張しているが、パスポートやIDカード、出生証明書など、身元を確認するための書類を一切所持していないため、確実な身元確認が極めて困難な状況にある。
オランダ入国管理・帰化局(IND)によると、難民申請者が身分証明書を持たずに入国するケースは珍しくない。理由としては、戦争や迫害の中で書類を紛失した、途中で盗まれた、または人身密輸業者から「わざとパスポートを捨てるように」と指示されることがあるという。
そのため、INDは申請者の証言をもとに、出身地の詳細な地理的説明や言語テストなどを行い、証言の信ぴょう性を確認する。例えば、特定の村から来たと主張する場合、「村からA地点まで歩いた場合、途中に何があるか」「自宅から半径5キロ以内にある公共施設を挙げよ」といった質問で確認を行う。
データベースに記録なし
容疑者の指紋とDNAはオランダおよび欧州全域のデータベースと照合されたが、いずれにも記録はなかった。これは、容疑者が欧州でこれまで犯罪記録がないか、あるいは他国での難民申請歴がないことを意味する。
検察は、容疑者が名乗った名前、年齢、ナイジェリア出身という申告内容を裏付けるため、ナイジェリアを含む複数国に情報照会を行っている。しかし、この手続きは時間を要し、身元が100%特定されるまでには長い時間がかかる可能性がある。最悪の場合、完全な確認が得られないまま裁判に進む可能性もある。
なお、法的には名前が不明でも起訴は可能であり、その場合は「NN(nomen nescio=名前不明)」として登録される。
容疑者にかけられた他の疑い
この22歳の男は、リサさん殺害事件だけでなく、以下の事件にも関与している疑いが持たれている。
- 8月10日:アムステルダムのWeesperzijdeで発生した性的暴行未遂事件
- 8月14日:同じくWeesperzijdeで発生した暴力的な強姦事件
これらの事件はリサさん殺害事件のわずか数日前に発生しており、短期間に連続して犯行が行われた可能性が高い。
捜査の進展と市民からの情報提供
8月22日に開かれた記者会見後、警察には約300件の情報提供や目撃証言が寄せられた。これらの情報は現在精査中であり、捜査上の理由から詳細は公表されていない。
また、事件現場周辺では再度の現場検証が行われており、水辺や道路脇などで新たな証拠を探す捜索活動が続いている。
司法手続きと今後の見通し
裁判所は8月下旬、容疑者の拘留を90日間延長する決定を下した。この間、容疑者は「接見禁止措置」が取られ、弁護士以外との接触が一切禁じられる。
90日以内に公開の予備審理(プロフォルマ審理)が行われ、検察が現時点での捜査状況を報告する予定である。
地域社会への衝撃
リサさんの死は、彼女が暮らしていた小さな町であるアブカウデの地域社会に大きな衝撃を与えた。町の祭りの開幕では1分間の黙とうが行われ、町全体が深い悲しみに包まれた。
リサさんの家族は声明で「多くの温かい言葉や支援に支えられ、この辛い日々を過ごすことができた。静かにリサを悼む時間を持ちたい」と語っている。
この事件は、短期間で複数の重大事件が発生しただけでなく、容疑者の身元が不明確であることから、捜査は複雑化している。オランダの難民制度や身元確認の難しさが改めて浮き彫りになった事件であり、地域社会は深い悲しみとともに、捜査の進展を静かに見守っている。