時給36ユーロ未満のフリーランスに労働者としての権利を付与へ。偽装自営業の問題に本格対応、2026年にオランダ政府が新制度導入予定。

偽装自営業の問題に本格対応、2026年に新制度導入予定

オランダではここ20年ほどの間に、自営業者(ZZP’er)の数が爆発的に増えていた。2003年には約63万人だったが、2024年には130万人を超えた。働き方の多様化が進む中で、フリーランスという形を選ぶ人が増えたのは確かだが、そのすべてが“真のフリーランス”というわけではない。

政府の推計によれば、このうち約20万人が「偽装フリーランス」、つまり企業が本来であれば労働契約を結ぶべき従業員を、あえて自営業者として契約することで、社会保障の支払いなどの義務を回避しているケースだという。こうした働き方は、社会保険に加入できず、病気や育児などに伴う休暇も保証されないなど、労働者にとって非常に不安定な状況を生み出している。

これに対し、オランダ政府はついに本格的な対策に乗り出した。


「時給36ユーロ未満なら、労働者と見なす」新たな基準

社会問題・雇用大臣は、2026年7月1日から施行予定の新法案を提案した。この法案では、時給36ユーロ未満で働くフリーランスに対して、労働者としての法的地位を主張できる権利を与える。

この仕組みの画期的な点は、立証責任が逆転することだ。これまでは、労働者側が「私は雇用労働者である」と証明しなければならなかったが、法案が通れば、今後は雇用主の側に「この人物は本当に自営業者である」と証明する責任が課せられるようになる。

証明に失敗した場合、その“フリーランス”は正式な労働者として認定され、企業は病気休暇、育児休暇、失業保険、年金積立など、雇用契約に伴うすべての社会保障義務を果たさなければならなくなる。

なお、時給36ユーロという金額は固定ではなく、毎年の最低賃金改定にあわせて変動する見込み。

また大臣は「低賃金の契約形態を強いられている人々の立場を守る」と語っており、この改革は搾取的な働かせ方に終止符を打つ大きな転換点となりそうだ。


「自由な働き方」と「偽装契約」の線引きを明確に

この法案のもう一つの重要な柱は、フリーランスと雇用労働者の違いを明確化するための判断基準の導入である。

たとえば、以下のような状況に当てはまる場合、その人はもはや“独立した働き手”とは見なされず、労働者としての保護が必要と判断される:

  • クライアントから「いつ」「どこで」「どうやって」働くかを細かく指示されている
  • 仕事のリスク(赤字や取引失敗など)を自分では負っていない
  • 自分で他のクライアントを開拓していない
  • 業務の遂行方法において自由裁量がない

社会問題・雇用大臣は「もし自分の仕事が管理されていて、起業家的リスクも負っていないならば、それはもはや雇用である。雇用には安定と保障が伴わなければならない」と述べている。

ただし、反対に「自ら仕事を獲得し、契約も自己裁量で結び、リスクを負って働く」真の自営業者に対しては、これまで通り自由な働き方を認めると明言している。


背景にあるのは「不公平な競争」と「搾取の構造」

オランダ政府がこの問題に本格的に取り組む背景には、偽装フリーランスが生み出す深刻な社会的・経済的影響がある。

まず、偽装契約によって企業は社会保険料の支払いを免れ、コストを抑えられる。すると、真面目に雇用契約を結び、適切な給与と保険を提供している企業との間に不公平な競争が生まれる。さらに、社会保障制度の維持にも悪影響を与える。保険料の拠出が減り、いざというときに制度が機能しなくなるリスクも高まる。

そして何より、フリーランスという形で働かされている人々が、病気になっても収入が保障されず、将来の年金も不安定なまま働き続けなければならないという“搾取の構造”が問題視されている。


企業側の対応もすでに始まっている

実際、2025年から政府は雇用実態のチェックを強化しており、多くの企業が“グレーゾーン”にあるフリーランス契約を見直し始めている。既にフリーランスの契約数は減少傾向にあり、雇用契約への切り替えが進んでいるとの報道もある。

新法が2026年に施行されれば、オランダの働き方はさらに大きな転換点を迎えることになるだろう。自由な働き方と労働者保護のバランスをどう取るか。世界中で議論が続くこのテーマに、オランダが一つのモデルケースを提示しようとしている。


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