Netflixで公開された『iHostage』が話題に。オランダのアムステルダムのアップルストア立てこもり事件の全貌。

街の中心で起きた非日常

2022年2月22日、オランダ・アムステルダム中心部で発生した人質立てこもり事件は、オランダ中を震撼させた。犯行の舞台となったのは、観光客や買い物客でにぎわうアムステルダムの中心地にあるアップルストア。突如として現れた一人の武装犯が店内に侵入し、自動小銃と爆弾ベストを身につけた姿で人質を取り、6時間にわたる緊迫の攻防が始まった。Netflixのドキュメンタリー『iHostage』は、この衝撃的な事件の一部始終を、実際の映像と関係者の証言を通じて克明に描いている。


犯人の動機と異様な行動

犯人はアムステルダム近郊の青年で、事件当日、店内にいた約70人の客やスタッフを脅し、うち1人の男性を「人間の盾」として拘束。犯人の要求は、1億ユーロ分の仮想通貨と安全な脱出経路。警察との交渉の間にも、犯人はApple製のiPhoneを通じて動画を撮影し、ライブ配信を試みようとするなど、自らの存在を“作品化”しようとする傾向すら見られた。そこには、単なる強盗や金銭目的を超えた、承認欲求や自己顕示的な心理が色濃くにじんでいる。


カメラが捉えた“現実”の緊迫感

『iHostage』が他の犯罪ドキュメンタリーと一線を画すのは、事件の「現場」から発信された映像をふんだんに取り入れている点にある。監視カメラ、警察官のボディカメラ、そして犯人自身が撮影した映像——これらが織り交ぜられ、視聴者は事件のただ中に引きずり込まれる感覚を味わう。加えて、店内にいた被害者たちの生々しい証言、交渉にあたった警察官の冷静な判断、そして事件をモニター越しに見守っていた家族の不安など、複数の視点が交差することで、事件の多層的な構造が浮かび上がってくる。



奇跡的な結末と残された問い<ネタバレあり>

この事件では、奇跡的に死者は出なかった。人質の男性が機を見て逃げ出し、それに乗じて犯人が後を追い外へ出た瞬間、待ち構えていた警察車両が猛スピードで突入し、犯人を制圧。その後、彼は搬送先の病院で死亡が確認された。人質は無事であり、警察の対応は「完璧だった」と称賛された。しかし同時に、事前に兆候をつかむことができなかった社会のセーフティネットの限界や、テクノロジーが暴力と結びつく危うさについての議論も巻き起こった。


ドキュメンタリーとしての意義と衝撃

『iHostage』は、単なる犯罪再現ドキュメンタリーではないく、社会の脆弱性、公共空間の不確かさ、そして極限状況における人間の行動を鋭く描き出す映像作品として評価されている。オランダ国内だけでなく、国際的にも注目を集めて、事件の「リアルさ」と「構成の巧妙さ」が話題を呼び、現代の犯罪においていかにテクノロジーが重要な役割を果たすようになったのかも如実に示されている。爆発物の疑い、仮想通貨の要求、SNSでの自己演出——全てが2020年代の都市型犯罪の象徴的要素であり、視聴者は画面越しにもかかわらず、あたかも事件の中心にいるかのような感覚となる作品となっている。

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