オランダでは、被雇用者と個人事業主・自営業者が税法や労働法上で異なる扱いを受ける。被雇用者は、年金拠出などの法的保護や福利厚生を享受できる一方、自営業者はより大きな自由と特定の税制優遇を得られるのが一般的となっている。しかし、これらの区分を明確にするのは簡単ではなく、特に低時給で働く自営業者の保護が課題となっている。
オランダ政府は、労働市場の公平性を回復し、偽装自営業(schijnzelfstandigheid)の問題を解決するため、この区別の明確化と取り締まりを強化する予定である。2025年および2026年には被雇用者と自営業者の区別に関する新ルールの導入が予定されている。
2025年1月1日からの執行猶予の終了
オランダ政府は、2025年1月1日をもって労働関係の分類に関する執行猶予(enforcement moratorium)を終了することを発表。この執行猶予とは、2016年に「労働関係評価法(Wet Deregulering Beoordeling Arbeidsrelaties)」の導入後に生じた労働市場の混乱を受け、一時的に設けられた措置であった。この法は、偽装自営業の取り締まりを目的とした制度であったが、その内容の曖昧さから労働市場に大きな不確実性をもたらしていた。
現在、税務当局による取り締まりは、悪意のある意図(例えば、企業が偽装自営業を故意に許容した場合)に限定されている。しかし、2025年以降は、企業が偽装自営業を防ぐための努力を示せない場合、税務当局が即座に是正措置や罰金を課すことが可能になる。
ただし、2025年1月1日以降に遡ってのみ適用される予定。また1年間の移行期間が設けられ、移行期間中は罰金の適用が緩和される予定である。
偽装自営業とは、個人が自営業者として活動していると主張しながら、実際には労働法上の雇用関係にある場合をしめす 。このような状況は、労働者の社会的保障の低下や不公平な競争を引き起こすため、オランダ政府はこれを問題視している。
政府の意図
オランダ政府は、労働者の権利保護、不公平な競争の是正、そして健全な税収確保を目指している。同時に、フリーランスや自営業者が果たす経済的な役割を尊重しながらも、適切な基準を設定して偽装行為を防ぐことを目的としており、このような背景から、2025年から偽装自営業への厳格な規制が導入されることになった。
偽装自営業が問題視される事例:
例えば、配送業界を例に挙げると、特にフードデリバリーサービスなどで、多くの労働者がフリーランサーとして登録されている。しかし、これらの労働者は実際には特定の企業の指示の下で働いており、労働条件も従業員と類似しているため、偽装自営業の疑いが持たれている。
このような事例は、労働者の社会保障の欠如や不公平な競争を引き起こしており、労働者が名目上はフリーランスとして扱われるため、雇用契約を結んだ従業員に適用される社会保障制度(失業手当、病欠時の収入補償、退職金積立など)を享受できない。
また労働者が病気や失業に備える保険を自己負担で加入する必要がある一方で、多くの人が十分な準備をしていないため、経済的な脆弱性が高まる。オランダ政府はこれらの慣行を是正するために規制強化を導入する。
規制強化を前に10万人以上が自営業を辞める:オランダ労働市場の動揺
オランダではフリーランスや自営業者の割合が近年では増加傾向にあった。特に建設業、物流業、ケータリング業などでこの傾向が顕著であったが、2025年1月からオランダ税務当局が「偽装自営業(schijnzelfstandigheid)」の取り締まりを強化することを受け、多くの人々が自営業を辞めている。オランダ商工会議所(KVK)のデータによると、今年の最初の9ヶ月間で10万人以上の自営業者が登録を取り消した。この数字は、前年同期と比較して約25%増加しており、税務当局による規制の影響が強く現れている。この規制の発表後、従業員やクライアントの間に不安を引き起こし、一部の企業は自営業者との契約を完全に避ける動きも見られている。
現在の従業員分類の基準
オランダ民法第7条610項では、労働契約は「従業員が報酬と引き換えに一定期間、雇用主の下で業務を遂行する契約」と定義されている。この関係は以下の3つの要素で特徴付けられる。
- 指揮命令関係: 雇用主が業務の遂行方法を指示し、監督する権利を持つ。
- 業務遂行: 従業員が継続的に業務を遂行する。
- 報酬: 業務に対して一定の報酬が支払われる。
これらの要素をもとに、契約内容だけでなく実際の業務遂行方法も考慮され被雇用者か自営業者かが判断されていた。
2026年に導入予定の新しい分類フレームワーク
オランダ政府は、従業員と自営業者を区別する新しいルールを2026年1月1日から導入する予定。このフレームワークでは、次の点が重視される見込み。
- 従業員の判断基準: 雇用関係を示す主要な要素(指揮命令関係、報酬など)が存在する場合、労働者は従業員と見なされる。
・業務遂行方法について雇用主が指示・命令権を持ち、労働者はこれに従う必要がある。
・雇用主が業務内容を監督・介入する権限を持っている。
・業務が雇用主の組織構造やフレームワーク内で実行される。
・業務が組織内で長期的に行われ、他の従業員と並行して同様の業務を行う。 - 自営業者の判断基準: 自営業を示す要素、以下の例が存在する場合など労働者は自営業者と見なされる。
・業務の財務的リスクや成果が労働者自身に帰属する。
・業務遂行に必要な道具や設備を労働者自身が用意・管理する。
・労働者が特定の専門知識やスキルを持ち、それが雇用主の組織内では提供されない場合。
・働者が外部から見て独立した人物として認識されている。
・業務の契約期間が短い、または週当たりの労働時間が限られている。 - 曖昧なケース: 両方の要素が存在する場合、独立した経済活動(複数のクライアントとの取引など)を評価し、最終的な分類が行われる。
さらに、法案では時給33ユーロ(予定)未満の労働者に対して、雇用関係が存在するという法的推定を導入することが提案されている。これは、交渉力が限られた低所得労働者を保護することを目的としている。
まとめ
今回の変更は、オランダの労働市場における偽装自営業問題を解決し、労働者の権利を保護することを目的とされている。
また自営業者向けの保険加入の義務化や、自営業者向け税額控除の段階的削減なども検討されている。
しかし、新ルールの導入は、企業や労働者双方にとって大きな影響を及ぼす可能性があり、多くの人々が新たな働き方を模索し、企業も柔軟な雇用条件の提供を求められる。特に曖昧なケースでは課題が残っている。この変化がオランダの労働市場にどのような影響を与えるのか、注目が集まっている。