オランダで外国の銀行カードやクレジットカードが受け付けられない理由とその背景。

オランダでは「PIN-only」という看板を多くの店で見かける。「PIN-only」という表示は、その店舗やサービスがPIN(個人識別番号)付きのデビットカードのみでの支払いを受け付けることを意味している。

具体的には、顧客がデビットカードを使って直接自分の銀行口座から支払いを行う方式。このシステムではクレジットカードは使えず、デビットカードのみが受け入れられる。スーパーマーケットやガソリンスタンド、公衆トイレなど、多くの場所でこの支払い方法が求められる。旅行者などが自国のクレジットカードで支払いを試しても、受け付けられない可能性が高い場合が多い。

この現象を理解するためには、オランダ人のお金に対する考え方を知る必要がある。

借金を嫌う文化

オランダの文化では、彼らが節約を好むということがある。例えば、オランダの友人や同僚と食事に行った場合、その場で割り勘をするか、すぐにTikkie(支払いを分割するデジタルプラットフォーム)で精算することが多い。

これはよく「Go Dutch」と表現され、食事や何かの費用を共に支払う際に、各自が自分の分を支払うこと、つまり割り勘を意味する。このフレーズは、特に英語圏でよく使われ、オランダではデートや友人同士の集まり、同僚との食事などで費用を平等に分担する状況が普通であり、オランダ人が独立心が強く、公平を重んじる国民性を持っているため、割り勘という概念が自然と肯定的に受け入れられているとも言われている。

この金銭に対する考えは、16世紀にフランスの神学者ジャン・カルヴァンによって提唱されたキリスト教のカルヴァン主義のルーツから来ていると考えられている。カルヴァン主義は、勤勉、寛容、公正、節約を奨励しており、オランダではこの倫理観が商業的成功と結びつけられた背景がある。今日の多くのオランダ人は無神論者であるが、カルヴァン主義の一部の原則は今もなお残り、現代文化に影響を与えている。

そのため、オランダ人は借金を避け、できるだけ「借金」という概念から離れる傾向が強いとされている。オランダ語で「借金」を意味する言葉は「schuld(罪悪感)」である。クレジットカードは、持っていないお金を使うことになるため、オランダ人は避け、お金を貯め、物事を購入できるようになるまで待つことを好む傾向があるとされている。

デビットカードの愛好

このオランダの金銭に対する考えを理解すれば、デビットカードがオランダで好まれる支払い方法であることが理解できる。具体的には、Maestro(マエストロデビットカード)というMastercardによって発行されるデビットカードが主流で、通常のMastercardがデビット、クレジットカードとして発行されるのとは異なるカードが採用されている。

クレジットカード手数料の高さ

店舗側にとってクレジットカード取引を受け入れることは、わずかながら追加コストがかかる。取引ごとに約1.8%の処理手数料が発生し、利益が少し減少する。無駄遣いを避ける傾向のあるオランダの多くのビジネスは、これらの手数料を避け、オランダのデビットカードまたは現金での支払いを求めることが多い。その為、小さな店舗ではデビットカードのみの取扱い、または現金のみの取扱いが一般的となっている。

Maestroの廃止の動き

現在、オランダでは決済システムの変更が進行中で、従来のMaestroブランドのデビットカードが段階的にVisaやMastercardブランドのデビットカードに置き換わる動きがる。これは、Maestroカードが特定の国々でのみ広く使用されている一方で、VisaやMastercardはより国際的に広く受け入れられているためである。

Mastercard自体が2023年からヨーロッパでの新たなMaestroカードの発行を段階的に終了し、代わりにMastercardブランドのデビットカードに移行すると発表している。この変更は、利用者がより広範な地域でカードを利用できるようにするため、および決済技術の進化に伴うものである。

オランダの銀行もこの変更に従い、新しい顧客にはMaestroではなく、VisaやMastercardブランドのデビットカードを提供し始めている。既存のMaestroカードユーザーも、カードの有効期限が切れるにつれて、新しいブランドのカードに更新されることになる。

この移行は、オランダ国内だけでなく、国際的にもカードの利便性を向上させることに寄与し、特に海外での利用の容易さが増すことが期待されている。

またオランダへの旅行者は自国で発行されたVisaやMastercardブランドのデビットカードやクレジットカードをより広範囲にわたって使用できるようになることも同時に期待されている。

オランダでMaestroとV PAYが廃止へ。新しくMastercardとVisaのデビットカードが登場。
2022年、オランダの人気「割り勘アプリ」Tikkieは過去最高の1億3000万の送信回数。
オランダの支払いシステム 「iDeal 」が 欧州銀行による買収を経て「Wero」となる。2025年頃に「iDeal 」は段階的に廃止される予定。
上部へスクロール