1977年から1982年までオランダの首相を務めたドリース・ファン・アハト氏が、妻のユージェニー氏と手を取り合ってこの世を去った。両者ともに93歳で健康状態が悪化しており、共に安楽死を選択した。
カトリック信者であり、かつてキリスト教民主アピール(CDA)のメンバーであったファン・アハト氏だが、安楽死は彼らの価値観には合わないように思える。しかし、ファン・アハト氏は常に自己決定を重んじ、年月と共により進歩的な思考を持つようになっていた。2019年に重い脳出血を経験した後、彼は「人生と苦痛が耐え難いものになったら、安楽死も選択肢になる」と語っていた。
70年間連れ添ったファン・アハトの妻と彼の健康状態は、安楽死を決断するまでに急速に悪化していた。二人は共に深刻な病を患っていたが、「お互いなしでは生きられない」との想いから安楽死を選択するに至った。
オランダ自発的安楽死協会(NVVE)は、夫婦が一緒に安楽死を望むことはオランダでは珍しくないと話す。しかし、実際に行うことはあまり多くない。医師による診断や証明、様々な条件があり簡単な道のりではないからである。
夫婦一人一人が別々に評価される必要があり、最も重要な要件は「希望がなく耐え難い苦痛があり、安楽死のリクエストが自発的かつよく考慮されたものであること」である。ほとんどの場合、パートナーが同時に亡くなるように2人の医師の診断や証明が必要となる。
2022年には、オランダで29組の夫婦が共に安楽死を選ぶ選択をした。これは2021年の16組のほぼ倍に当たる。その年に安楽死を選んだ総数9,000件の内の小さな割合ではあるが、近年は明らかに増加している。特に一生を共にし、お互いが一体となった人々のもう一方の死を経験する必要がなくなるので、自分自身を悲しみから救う為、安楽死の選択が受け入れられる傾向にある。
高齢に伴う複数の病状の蓄積に基づいた安楽死を提供することに対する医師のためらいは依然として見られるが、安楽死が合法なオランダでは安楽死を選択する高齢夫婦は増加すると予想されている。